青熊ラジオ

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 もぐら日和
 

きゅうに北風が吹いた週末のこと、うちの奥さんが不在だったので、娘たちを連れてベルリン動物園に行ってきた。下の娘の友人のKちゃんのところも奥さんが仕事だとかで、パパのM氏とKちゃんも一緒だったが、男二人に娘三人という、ちょっと面白い組み合わせでなんだか新鮮だった。

 もっともKちゃんのところは、動物園の年間パスポートをもっていて、M氏などはガイドなみに詳しいのである。二時に待ち合わせしたのだが、

「二時十分から、ライオンの餌やりがあるのだけど、ちょっと間に合わないなあ。じゃ、そのあとの三時十五分からのあざらしの餌付けショーを見ることにして、今日は寒いし、それまでは夜の動物コーナーにいきましょうかね」

などと言う。

僕はベルリンに十五年近く住んでいて動物園にも最低でも十数回はきているはずだが、これまで「夜の動物コーナー」へは行ったことがなかった。というかじつはそんな場所があることも知らなかった。

  というのもベルリン動物園は、広さこそ、並だが、一八四四年の開園以来、世界中の動物を集めに集めて、では1400種類合計1万9千頭の動物が観察できるという、世界有数の動物園なのである。象だのカバだのサルだの主だったものを見ているだけで時間はすぐに過ぎてしまう。だが、そのあたり年間パスポート組は、目のつけどころが一味違うようだった。

夜の動物コーナーは、ライオンの檻のすぐ真下にあって。M氏のいうとおりちょうどライオンは大きな肉塊をもらったばかりで、たてがみを振り乱しながら豪快に、ガツガツと、もさぼり食っていたが、Kちゃんはそちらには見向きもしない。まっしぐらに地下にもぐっていく

 そこは密閉度が強く、M氏が言うとおりかなり暖かい。なんだかほっとする暖かさだった。そして通路に小さなライトがついているほかは真っ暗。ガラスのむこうで動物たちが青白い光にときどき映し出される。夜行性というが、なるほど元気なものである。

 耳の大きなネズミのようなカンガルーとか面白いものがたくさんいて、それが走り回っている。なんでそんなにあわてて走っているの? とききたくなるぐらいせわしげで、まるで「不思議の国のアリス」に出てくる白ウサギをほうふつさせた。

 暖かくて暗くて、なんだかわくわくするファンタジー世界。ちょっとこたつの中みたいな…こういうところだと、僕は、はまってしまうのである

 娘たちが、「そろそろアザラシを見に行こうよ」と呼ぶが、「ほら、モグラだぞ。面白いねえ」と僕は動けない。モグラというと、のろのろしているというイメージだったが、じつは敏捷で、せっせっと餌を運んでいる。

 モグラでさえ働いているのかと思うと、仕事しなきゃなあとつい思う。そして、このごろ朝型になったが、やっぱり仕事は、夜のほうがはかどるのかもしれない。などと考えていと、下の娘に、
「もう、パパったらあ、モグラはいいかげんにして!」と怒鳴られてしまった。
 

(初出「浜松百撰」2008年10月号。一部加筆改変しました)
©Jun NASUDA2008

 

p.s.ベルリン動物園といえば、白クマのクヌートが有名だけど、彼はすっかり成長して少年になってます。その母親トスカが、クヌートの育児を放棄したときからずっと面倒を見てきた飼育係トーマス・デルフラインさんが十月に死去したとのこと。四十四歳。若すぎです、合掌。