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 「ゴリラの餌で悟る」

 

 

「なあ、5LDK168㎡のアパート家賃が1580ユーロ(約20万円)だってさ。これなんか、どう? 広いぜ」

 僕がネットで、ベルリンの不動産情報を眺めながらきくと、むこうで仕事をしていた奥さんがためいきをついた。

「そんな夢みたいなこといってないで、机のまわりをもっと整頓したら? いらないもの捨てるとか。紙くずだらけじゃない」

 そうすれば机も広くなって、仕事もはかどるのだろうにと、奥さんは主張する。

 だが、これまでもいろんなところで何度か書いたような気がするが僕は整理ができない。その点、うちの奥さんはその手の達人である。システマチックにモノがしまわれていて、いえばたちどころに現れる。まるで手品のようだ。

 それならいっそ代わりに整頓してもらいたいと思うのだが、そんな面倒くさいことはしたくない、自分でやれ、という。そういうところは冷たい

 

 

 

 彼女が紙くずよばわりしたものだって、仕事の大事な資料だ。最近、僕は、何冊も同時に小説とか童話を書いているから、資料も半端じゃない。で、これらが机の上で交じり合っているのである。しかも、必要なときにみつからない。

これは、絶対に引き出しの数が少なすぎるせいだ、もっと広い仕事場があれば、整理棚もばっちりおけて、こんなストレスから解放されるにちがいない

そこで、ネットで、こりずにまたこっそり新居の夢を見て、いいなあとつぶやいていると、下の娘がやってきて箱がほしいという。

「人形の洋服をしまうの」

「でも、昨日もあげたでしょ

「あれはクマのベビーので今度はリボンちゃんの。みんなそれぞれに必要なのよ」

娘は、あたりまえだという顔をし、

「ゴリラだってそうしてたよ

「はっ?」

「パパが撮ってきた動物園のゴリラの餌の写真。リンゴもじゃがいもも、みんな別々のボールに入ってたじゃない」

「そ、そうだっけ?」

 

 先日、動物園にいったとき、たまたまゴリラの食事どきで、飼育係が餌の準備をしていたので、面白いと思って撮ってきたのだ。でも、そんなふうに食材ごとに分類されてたなんて気がつかなかった。

ほんとかと思って、パソコンのマイピクチャーで確かめるとそうだ。とっても整頓されて見える。ボールの代わりに箱。餌の代わりに資料。そうすればすっきり収まるかもしれない。

なるほどこの手があったか。

「ストップ!」

 ダンボール箱を抱えて持っていこうとした娘を呼びとめ、ついでに昨日やった箱も返せというと、あかんべーをされたでも、整理するなら同じタイプの箱のほうがいいに決まっているし、数も必要だ。

 たしかうちの奥さんも似たようなのを持っていたはず。そう思うと、下の娘も同時に気がついたようで、僕らはあわてて走り出した。

「なあ、箱ないかな、箱」

「ママ箱ちょうだい」

 しばらく箱の争奪戦になりそうである

 

初出「浜松百撰」2009年2月