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これって大凶?

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 この冬のドイツは、記録的に日照時間が少なく、どんよりと暗い日が続いた。ただでさえ寒くてつらい冬……、ベルリンの我が家ではクリスマスに奥さんが風邪をひいてから今まで、ずうっとだれかが病で臥せっているような状況で、ただでさえいやな感じなのだが……。こんなときは疫病神もはりきって寄ってくるのかもしれない。
 じつは毎年、僕は三月にドイツのデュッセルドルフにあるインターナショナル・スクールでワークショップを行っているのだけれど、ベルリンから出発する飛行機がまず一時間遅れた。そしてデュッセルドルフについて、学校が用意してくれたホテルへタクシーで行ってみると、予約が入っておらず部屋がないという。なんでも数週間前にオーナーが代わったのだが、その際に予約の引継ぎのミスがあったらしいとのこと。すみませんとひたすら謝られたが、ちょうど見本市があり、近くのホテルはどこもいっぱい。ともかくも二十キロ先にある系列ホテルに部屋をみつけてもらい、タクシー代もホテルもちということなので了解したのだが、片道三十分のロスである。
 それで済めばよかったのだが、今度は二日後の帰りだった。航空会社から「大切なお知らせがあります…」とメールが入ったのでなんだろうと思ったら、デュッセルドルフ空港が荷物検査係りのストライキのため飛行機はキャンセルになったとのこと。「へっ?」とメールを読み返すと、飛行機はすべて飛ばないので、電車のチケットを用意したとある。PCを持っていてメールを受け取れたからよかったが、そうでなかったら、夕方、空港で荷物を引きずったままおろおろするところだった。
 だが不運はまだ続くのである。ICE(ドイツの新幹線)でデュッセルドルフからベルリンまでは四時間半。夕食にとピザを買い、車両に乗り込んだものの、三十分ほど走ったところで停車してしまったのだ。
なにごとかと思ったら、「不審な荷物を発見したので、州警察が到着するまでしばらくお待ちください」とアナウンスが入った。その後、不審物がみつかった車両からかなりの客がこちらまでぞろぞろ移動してきたのだが、ただでさえ満員だったので、座れない人たちが続出した。その中には、九人組のグループ旅行というおばあさんたちがいたからもう大変。八十歳という方から、若くて六十七歳とのこと。するとドイツの若者たちがさっと席を譲る。きみたちえらいねえ…と思いつつ、仕事でくたびれはてていた僕はドイツ語ぜんぜんわかりませんって顔をしながら、半分寝たふりしていたのだけれど…。ところが、このばあさんたち、席を離れてすわったのはいいが、小学生の修学旅行みたいなのりでたがいに話を続けるので、そのやかましいことこの上なかった。
結局、不審物騒動のせいで、電車がベルリンに到着したのは予定の二時間遅れ。さらにもう真夜中でタクシーの数も少なく、しかも電話は電池切れで家にも連絡がつかない。ぼろぼろになってようやく我が家についたのは、深夜一時すぎだった……。
「おかえり~。まあ、生きていればいろいろあるよ」とうちの奥さんがいうが、こんな大凶のような日々はさすがにもうたくさんである。



(初出「浜松百撰」2013年。一部加筆改変しました。写真は実家のネコ。太りすぎて椅子からはみだす・・・。)©Jun Nasuda

散歩もままならない。

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 この数ヶ月、創作の仕事が忙しく、ずっと机にかじりついてばかりいた。そのため、ストレスと、脳の活性化のためのおやつ、それに運動不足のトリプルパンチで、このまえ、体重計に乗ったら、人生最重量を記録してしまった。会う人に、「このごろ元気そうだね」などといわれて、「そうかな…」とうれしがっていたのだが、じつは「太ったんじゃない?」ということを暗に告げたかったらしい。
 自分の胴回りを見て、さすがにまずいなと思う。「パパのおなか、ぽよぽよしてて好き」といっていた次女も、心変わりしたようで、最近は、「これ、なんとかしたほうがいいよ」と冷たい。
 で、よし、ひそかにトレーニングしてやれ、あっというまに減量して、みんなにひきしまった体型を自慢してやるぞ…と、妄想をいだき、昔、やっていたダンベル体操用にダンベルを探してみたもののみつからない。
 いきなり挫折である。
 じゃ、歩くか、と考えて、いまは東京なので、家のまわりを散歩することにした。
 せっかくだから 多摩川が近く、そこに流れ込む支流にそって遊歩道もどきがあるので、そちらに足を伸ばしてみる。ふらふらと歩いていくと、頭の上を道路と交差する橋がある。そのたもとに、ノラネコが数匹たむろして、どこからかひきずってきたのか、コンビニの袋に顔をつかんでむしゃむしゃやっている。ときおりこちらをうさんくさそうに見あげ、ぐいっとのびをしてみせる。手をのばすと近寄ってくる。
 へへへ…と遊んでいると、
「エサはやらないでくたさい」
と、うしろからふたりづれのおばさんたちに声をかけられた。
「やってませんけど」
「なら、いいんですけど、ノラにそうやってエサやる人がいて、残飯にカラスもよってくるものだから…」
 おばさんは疑い深そうにいうと、そそくさとむこういった。同じ疑り深そうな目つきでも、ネコと違ってこちらは可愛くない。
 遠くでおばさんたちの声がきこえる。
「早期退職者かしら…? 浮浪者じゃないみたいだしね」
「わかんないわよ、ちかごろはふつうに見えても……」
 それって、ぼくのこと?
 まあ、平日の午後二時ごろにそんなとこでぼうっとしていたのだから、怪しまれたのかもしれないが、うーむ。
 親しい編集者に、早期退職って何歳ぐらいなの? ときいてみたら、近頃は五十代のはじめとかでもけっこういるという。
「もう引退するつもりなんですか? まだはやいんじゃない、やっぱり」
「じゃなくて…」
と、わけを話したら笑われた。
「ちゃんとウォーキングウェア着て、いかにもトレーニング中ですってアピールしていないとそのうち職務質問されますよ」
 職務質問か…それはされたことがないので、ちょっと興味がある。それにしても、散歩ぐらいすきにやらせてほしいものだ。


(初出「浜松百撰」2012年。一部加筆改変しました。写真は実家のネコ。太りすぎて椅子からはみだす・・・。)©Jun Nasuda

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『ペーターという名のオオカミ』より
illustration by Michael Sowa©

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『星磨きウサギ』より 
illustration by Toshimi Yoshida