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「日曜日の現実」

 

 以前、日本の雑誌を読んでいたら、ある男性作家がインタヴューで、「子どもですか、仕事中に邪魔されたって別に気になりませんよ…」というようなことを語っていた。
 すごいと思う。

  だが、僕にはとうてい無理だ。部屋の長さが二百メートルぐらいあって、むこうの隅のほうで娘たちが静かにママゴトしているのなら文句はない。

  でも実際は、僕の背中のすぐうしろにドアがあり、廊下をはさんで子ども部屋になっている。

  日曜日ともなるともうお手上げである。朝から喧嘩で、泣き声がやんだなと思ったら、プリンセスに扮した娘たちがしずしずと入場してくる。「パーティが始まるからパパもどうぞ」などと誘ってくれるのだが、「原稿書いているからあとでね」と断る。それもつかのま、今度は「パパ、死なないで!」という娘のただならぬ叫び声が。なにごとかと見に行くと、恐竜になった次女に、ぬいぐるみ熊一家の父親が食われているところだったりするのだ
  ためいきをついていると、奥さんに、カフェにいってきたらと言われた。
 作家のケストナーは、かつて、ベルリンのカフェを書斎代わりにし、女性秘書に口述筆記をさせながら小説を書いたという伝説がある。

 僕はひとりの世界に没頭できないとだめなタイプなので、仕事をしようとは思わなかったが、それでも資料を読んだりすることはできる。
 それで鞄に何冊か本を持って、外に出たのだ。近所の住宅街の中にいくつかあるカフェのひとつに入って、窓際の席につく。まわりはがらんとしていて静かに音楽が鳴っている。可愛らしいウエイトレスが注文をききにきて、コーヒーを頼むとにっこり微笑んで戻っていく。窓の向こうはのどかな陽だまりで、ガラスで遮断されているので、まるで無声映画を見ているよう。
 こんなことなら、もっと早く来ればよかった……と、思えたのは、でも、何分ぐらいのことだったろう。

 しばらくすると、五、六人の子どもたちと、その親がぞろぞろと店に入ってきて、僕の横のテーブルを占領し、「ハッピィバースディ、トゥー、ユー」と歌い始めたではないか。

 なんのことはない、テーブルがすいていたのは、子どもの誕生会の予約が入っていたからだ。
 ケーキがすむと、子どもたちは他のお客に気を使って外に出される。だが、なにかあれば、お母さんたちのところに戻ってくるのはしょうがない。主役の男の子が、三角の帽子をかぶり、僕のうしろを通り抜けようとして「ごめん、通してね」と叫んでいく。そのたびに僕は席を立ってやる。

  やれやれ、これが日曜日の現実というものだろう。そもそもみんなが休みの日に仕事をしようというほうが間違っているのだ。
 僕が本をしまい、席を変えてもらって、さっきの可愛らしいウエイトレスに告げたのは言うまでもない。
「さて、ビールを一杯」

(初出:浜松百撰2006年2月号より・浜松百撰のご好意により転載させてもらいました)
©Jun NASUDA