そのあとの熊たちを襲った運命は悲惨である。熊たちは、市民たちの献身的な努力で餓死もせず、ベルリン大空襲を奇跡的に生き延びたものの、戦後まもなく起きた市民暴動の犠牲になって崩れた砦の瓦礫の下から遺体となって掘り起こされる。その後、熊砦はしばらく閉鎖され、49年の11月に、ナンテとイエテの二頭の熊が、砦の新しい住人になったときは、東ベルリンの熊としてであった。
それから、壁の建築と崩壊、ドイツの再統一というベルリンが辿る人類史を語る上でもきわめて数奇な時間が、熊たちの上にも通り過ぎていった。もちろん熊たちにとって人間の歴史なんて、はっきりいってどうでもよかったろう。ただ迷惑なだけで……。
でも、人間である僕は、どうしてもそこに思いをはせずにはいられないのだ。歴史というのは必然である。そしてその過去の延長線の上に、今の僕もいるのだから。
夏草が匂う物憂げな昼下がり――。
堀のむこうでティロがもそもそとリンゴをかじっている。ウド・リンデンベルクの歌う少し昔に流行ったバラードが、ふと脳裏によぎって、僕は読みかけの本を置く。
まだ東西の壁があった時代に、東ベルリンに遊びに出かけた西ベルリンの少年はひとりの少女に恋をする。だが、当時のビザは午前零時に失効するのである。少年は帰らなければならない。ちょっと切ない歌だ。
ぼくらはもう少し一緒にいたかっただけなのに……
©Jun NASUDA