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「リニューアル」

  もうすぐ三月、そろそろ卒業式の季節である。
  年度の終わりというと、僕の住むドイツでは六月末から七月にかけになる。
 もっとも社会人は、日本のように各社が横並びで一斉に新卒者を採用するということはなくて、それぞれが随時に欠員募集という形で求人しているそうなので、そのあたりはだいぶ違うのだけれど。
  それでも、その年度の切り替わるころになると、これから新しい日々がスタートするんだなという気配が、街全体に濃厚に満ちはじめる。
  わが家でも長女のミオが、昨夏に、小学校にあがったので、その時期は入学準備やらなにやらで、なんとなくあわただしい思いをしたのを覚えている。
  印象的だったのは、ぴかびかのランドセルや新しい文房具などを眺めつつ、うきうきしている姉のそばで、そういう気持は伝染するのか、三歳になる妹のアキのほうも何事か感じるものがあったらしいことだ。
  実際、卒業式、入学式みたいなビッグイベントがなくても、年度始めというのは、あらためて仕切りなおしができるタイミングではある。

 ドイツの公立幼稚園は、施設ごとに夏休みの時期がずれていて、通っているところが休みに入っても、親の仕事の状況次第で別の幼稚園が臨時に預かってくれる。その制度を利用して、アキは別の幼稚園に通っていたのだが、そこではかなり「よい子」をやっていたのである。
  誰に似たんだか、アキは要領がよくて、ちょっとばかり「ずるい」ところがあり、叱られそうになるとすぐに泣きまねをする。
  でも、そのあたり、いつもの幼稚園では、もうすっかり見通されていて、アキが号泣していても、先生たちには「ふふふ、役者じゃのお」と相手にしてもらえない。
  それが、一時預かりをしてもらった幼稚園では、人代わりしたみたいに率先して手伝いもするし、返事からして「へーい」「ふふん」だった子が、「はい」「いいえ」などと優等生になっていた。
  いつまで続くのだか……、

  と思っていたのだが、結局、そのまま「優等生のアキ」というイメージは壊さなかったようだ。
  その後は元の幼稚園に復帰してもそれなりにふるまい「大人になったねえ」といわれるようになったから、
「昨日までのだめな私にサヨナラするチャンスだわ」と、そのタイミングをとりあえずモノにしてくれたのだろう。

 以前、僕は短編小説で、海辺の波打ち際に線をひいて、それを飛び越えることで、自分なりに過去に区切りをつけようとした青年の話を書いたことがある。
  実際のところ、自分を変えるというのは、つまりは自己暗示なのだから、なにかしらきっかけがあればいいのかもしれない。
  部屋の模様変えだとか、大掃除とか、新しい靴を買うとか、そんなことでもオーケーなような気がする。
  そのとき実際に、なにかが変わるわけではないにしろ、自分の中で変化を求める気持ちは、そんなところから始まり、やがてどこかで活きてくるのではないだろうか。
  春――、自分の中のなにかをリニューアルするにはよい季節かもしれない。

(初出「浜松百撰」2006年9月号一部加筆改変しました)