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「ロイヤル・バナナスペシャル」


  最近、読者から「子どもの頃はどんな風だったのですか?」みたいな質問をよく受ける。少年時代をテーマにもっぱら小説を描いているせいかもしれないが、じっさいのところどうだったのか気になるらしい。そのたびに首をひねり「うーん……」と、答えをひねり出しているのだけれど、正直なところ僕自身よくわからない。成績だってまあ並だったし、スポーツもさほど得意ではなかった。少し前に当時の同級生の女の子に会ったとき、「まじめそうな顔をして、よいことも悪いこともやっていたよね」と言われた。たぶんきっとそんなふうな、さして目立ったところのない子どもだったのだろうと思う。
  ただ、なにかにつけ影響されやすく、そのあたりは今日まで続いているので僕の性癖なのかもしれない。『巨人の星』をテレビで見れば日がな一日、家の壁にむかって大リーグボール何号かを研究していたし、マンガもしかり。本からも多大な影響を受けた。
  僕の好きな小説のひとつに、ウイリアム・サローヤンの短編集『わが名はアラム』があるが、その中に『機関車三十八号という名のオジブウェイ族のインディアン』という作品が含まれている。

 

  ある日のこと、アラムが図書館からの帰り道、ドラッグストアの喫茶室でアイスクリームの「つぶした胡桃をかけたロイヤル・バナナスペシャル」を食べていると、むこうからロバに乗ってやってきたインディアンに「よおっ」と声をかけられる……。

 物語は、貧相に見えるがじつは石油王で大金持ちのインディアンと貧しいアルメニア系移民のアラム少年の日々を描いたものだが、少しセンチメンタルで、初夏の昼下がりに読むのによいだろう。僕は、十二歳のときにこの短編に出会ってしっかりはまってしまったのである。

 その頃、鎌倉の新興住宅地に住んでいたのだけれど、もちろんまだドラッグストアなんてものはまわりになかった。二つ上の兄に「ドラッグストアってなに?」ときいて「薬局だよ、ばあか」とぶっきらぼうな口調で教えてもらったのだが、薬局に喫茶室があるというのがどうにも思い浮かばなくて、悩んだものである。しょうがないので近所のスーパーマーケットにいき、そこのカフェテラスでソフトクリーム(残念ながら「つぶした胡桃をかけたロイヤル・バナナスペシャル」なんてものもなかったから)を食べながら、何日も過ごしていた。もちろんそんなことをしてもインディアンなんて通りかかるはずもないのはわかっていたけれど、もしかしたら……とかすかに期待しながら。

 もっとも、たいていはスーパーに買い物にきた近所の知り合いのおばさんに「ひとりで買い食いなんていけませんよ」と叱られるか、同級生に「そんなところでぼんやりしてないで、野球でもしようぜ」と誘われるのがせいぜいであった。
 でも、あんなふうに、なにをするでもなく、なにかを待っているっていうのは、じつによかったなあ。
 
追記 ドイツはアイスクリーム天国でいろんなアイスが食べられるが、まだロイヤル・バナナスペシャルには出会っていない。

(初出「浜松百撰」2006年4月号。一部加筆改変しました)
©Jun NASUDA2006